栗原貞子さんが亡くなった

＜訃報＞栗原貞子さん９２歳＝原爆詩「生ましめんかな」
　原爆詩「生ましめんかな」で知られる詩人、栗原貞子（くりはら・さだこ）さんが６日午後８時１５分、広島市安佐南区長束３の２２の１の自宅で死去した。９２歳だった。

『生ましめんかな』

こわれたビルディングの地下室の夜だった。
原子爆弾の負傷者たちは
ローソク１本ない暗い地下室を
うずめて、いっぱいだった。
生ぐさい血の匂い、死臭。
くさい人いきれ、うめきごえ
その中から不思議な声が聞こえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。
この地獄の底のような地下室で
今、若い女が産気づいているのだ。

マッチ１本ないくらがりで
どうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です。私が生ませましょう」
と言ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で
新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも